今回の印刷を科学する(インキ編)では、最終工程である製本へ行きつくまでに、多岐にわたる工程を経ているために、どこに原因があって起こる事象なのかを特定することが非常に困難を要し、これという特定が出来ないのが現状です。ただ、アンケートでも多かったコスレや色落ち、接着不良は明らかにインキが関係しているものであり、紙・インキ・印刷のマッチング、そして製本へ至るまでの環境によって品質が変わることが知見として見えてきました。最終工程において前工程に対して提案することは、よりよい製品を提供するための最低限の所作だと考えます。今後ますます紙媒体に対する風当たりは厳しくなることが予想される中で、関係各位とタッグを組んでより良い製品づくりを目指すためのお役に立てれば幸いです。
東京都製本工業組合 製本+シナジー創造特別委員会
委員長 本間敏弘
製本を科学する実行委員 井上正
出版指標年報(1970.1980.1990.2000年、出版印刷研究所刊)の出版産業売上高の推移をみると1965年を境に急速にその規模を拡大している。その原因にはいくつかの要素が重なり合って市場拡大に成功したと思われる。一つは出版流通システムの確立。一方では生産工程における技術革新の開花である。前金制や注文買切り制度としての販売が主流だった出版流通は1908年(明治41年)の大学館による委託販売制度の試みを契機に徐々に広がりを見せ、大量雑誌販売の先鞭を切ることとなった。また、出版物を出版社から小売書店へ卸す販売会社を問屋と呼ばず、取り次ぐ会社という意味で取次店、取次会社と呼称し、1950年(昭和25年)の創立した社団法人日本出版取次協会が創立され、その基盤が作られていった。 (1986年、本の情報辞典、出版ニュース社刊)
このようにして流通網が確立する中で製造部門である印刷・製本業の技術革新も進んでいった。その一つが活版印刷からオフセット印刷へと印刷自体が変容したことによって大量生産への足掛かりができたこと、そしてもう一つは製本分野における糊の改良である。今回はページの制約からその生産能力を飛躍的に伸ばすこととなった接着剤=ホットメルトについて焦点を当て、その性能面や特徴、そして次代の接着剤として注目されているPUR型ホットメルト接着剤までをわかりやすく解説していきたいと考えます
東京都製本工業組合 製本+シナジー創造特別委員会
委員長 本間敏弘
製本を科学する実行委員 井上正
製本資料館は、製本業のPRと製本技術の伝承を目的として2012年に開設されました。
ここでは、紙を包丁で断裁していたころの手包丁や三方金の時に使う「金コロ」など、いまは機械化され使うことも見ることもできなくなってしまった、製本の歴史が感じられる貴重な古い道具から、最新の製本技術やアイディアを駆使したサンプル品、製本業界の歴史をたどることができる記念誌や、海外の珍しい製本、古い本など、製本に関する様々な資料を展示しています。また、製本のひきだしの人気コンテンツ「製本傑作集」の中でもご紹介している作品もご覧いただけます。
製本を生業としている方々のみならず、デザインや印刷に携わる方々にとっても興味深い資料も多いはず。この資料館は組合員だけでなく、広く一般の方々にも開放していますので、是非一度ご来館ください。解説が必要な場合には、ご予約の際にお申し付けいただければスタッフがご説明します。
東京都製本工業組合 製本+シナジー創造特別委員会
委員長 本間敏弘
製本を科学する実行委員 井上正
展示品一部抜粋
【製本サンプル展示品】
製本作業工程における技術力には、2パターンがあります。一つは機械加工におけるオペレーション力です。このオペレーション力は、操作マニュアルに則った機械調整し、素材にあった操作を的確に行い加工することができる能力です。二つ目は、多種多様な素材の条件に合わせて、瞬時にしてその加工方法を導き出して、いとも簡単に加工してしまう能力、すなわち体験を繰り返すことで積み上げてきた能力というものがあります。これはいわゆる匠の技とか職人芸と称される能力で、一朝一夕で習得するのは難しく、経験を蓄積することで積み上がってくるものです。
今回、『製本を科学する』プロジェクトにおいて、接着剤を紐解くにあたって、この経験的な積み上げ価値というものが一番影響しているのがエマルジョン型接着剤であると考えます。気候や天候の変化に合わせて水分量を調整したり、各種の接着剤を調合することで、素材に最適な接着性能を作り出して加工する。私たちはこの職人的な各社の核となるであろう技術力を、定量的に『見える化』すること、いいかえれば標準化することの意義を、紙媒体への新たな価値創造であったり、技術の伝承への貢献であったり、あるいは無用なトラブル回避への抑止力となると考え、切り込めるところまで切り込んでみたいと考えました。
内容における不備や不足があるかとおもいますが、ここに上程させていただきます。今後も新たな素材の出現や環境変化によって内容を更新する必要が出ると思います。是非皆様のご意見を伺いつつ、ブラッシュアップさせていきますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
東京都製本工業組合 製本+シナジー創造特別委員会
委員長 本間敏弘
製本を科学する実行委員 井上正
東京都製本工業組合・製本+シナジー創造特別委員会(シナジー委員会)では、製本会社各社が独自で永年積み上げてきた経験や体験に基づく知恵や知識を、定量的に表現することで、不要な事故を未然に防止し、さらに新たな製本手法や製本加工方法の開発につなげ、印刷物の価値向上や製本業の地位向上に結び付けたいと考え、約1年間かけて会員の製本会社やメーカーと協議を重ね、2012年度の集大成として、第一弾「断裁・刃物編」をまとめました。
今回の取り組みは、製本組合の会員各社が永年積み重ねてきた独自のノウハウである経験的価値・意味的価値を、製本各社と各メーカーの協力の元、形式知としてまとめ上げたもので、このことは業界でも初の試みであり、大きな第一歩だと思います。各社が保有するコア・コンピタンス(各社の核となる独自の強み)を確認し、模倣困難性を高めることで製本専業者としての存在意義を高めていく第一歩にできたと考えています。
2013年度は、第二弾として「糊(のり)編」に取り組んでまいりますので、ご期待ください。
東京都製本工業組合 製本+シナジー創造特別委員会
委員長 本間敏弘
製本を科学する実行委員 井上正
東京都製本工業組合 製本+シナジー創造委員会では、先の東日本大震災で被災した地域の子供たちに、少しでも元気になってもらいたいという思いで印刷産業青年連絡協議会が企画した「えほんとてがみ」プロジェクトに賛同し、後援いたしました。
本プロジェクトで企画した絵本を買うと、ポストカードがセットされており、被災地の子供たちにメッセージを書いて事務局あてに送っていただくと、事務局から同じ本とお預かりしたメッセージを被災地の子供たちに届けるというものです。
購入した人と被災地の子供たちをつなぐ「絵本」は、福島出身の絵本作家ちくいこずえさんが今回の企画のために書き下ろしてくださったオリジナル・ストーリー「おえかきかきかき」。被災地のこどもたちを元気にしたいというたくさんの人たちの思いがつまった絵本となりました。
東京都製本工業組合 製本+シナジー創造特別委員会では、この絵本の製本ディレクションおよび、販売するためのISBNコード取得をサポートいたしました。
販売は特設サイトを中心に行う予定です。皆様も是非ご協力お願いいたします。
後援
絵本制作 | ちくいこずえ |
DTP | 株式会社フォレスト |
印刷 | 表紙/株式会社旭洋社 本文/株式会社オフセット岩村 ハガキ/株式会社ミカド |
インキ | 東洋インキ株式会社 |
製本 | 佐藤紙工製本株式会社 有限会社吉澤製本 有限会社堀江紙工 有限会社中正紙工 |
表面加工 | 株式会社ニチエン |
用紙 | 株式会社竹尾 |
Webサイト | 合同会社アライアンス・ポート |
製本ディレクション、 ISBNコード取得 | 東京都製本工業組合 製本+シナジー創造特別委員会 |
東京都製本工業組合「製本+シナジー創造特別委員会」が製本加工を担当させていただいた日本図書設計家協会の25周年記念事業・カヴァーのチカラ4「手塚治虫を装丁する」展の図録(写真)が、第45回造本装丁コンクールにおいて「日本印刷産業連合会 会長賞」を受賞しました。
「手塚治虫を装丁する」展は、手塚治虫という日本を代表する作家の作品を用いながら、紙媒体でこそ味わえる本の素晴らしさをアピールしたいということで企画されました。
電子書籍元年と言われた2010年、本や印刷の持つ魅力を社会に伝えるという趣旨に賛同し、ブックデザイナー、紙卸商、印刷業、製本業が一体となり制作しました。東京都製本工業組合も、この企画に協賛し、「製本+シナジー創造特別委員会」が担当しました。われわれ製本業としては、せっかく協力するからには、製本のプロらしい仕事をしなくては意味がない!ということで、打合せに打合せを重ね、仕様は「小口決め無線綴じ」加工に決定。かなり手間のかかる加工で苦労もありましたが、展示会では大変好評で、企画に参加された方々にも満足いただくことができました。
今後も業界外の方々とのコラボレーションを積極的に進め、製本加工の魅力を広くアピールしてゆくことで、紙媒体や製本の価値向上を進めていきたいと考えています。
今回ご協力いただきました下記メーカー各社に対し深謝申し上げます。
なお、本稿の記載事項に関しての誤謬は全て東京都製本工業組合の責めに帰するものであり、調査先関係各位の責任を負うものではありません。
■ご協力企業
DICグラフィックス株式会社 | www.dic-graphics.co.jp/ |
女神インキ工業株式会社 | www.megamiink.com/ |
東洋インキ株式会社 | www.toyoink.jp/ja/index.html |
お問合せは東京都製本工業組合まで。
TEL 03-5248-2451 FAX 03-5248-2455
http://www.tokyo-seihon.or.jp/contact/