印刷の世界は、ハード面(たとえば活字)に限って言えば、明治以後一世紀にわたって、資産を増やし続けてきました。それは膨大なものです。しかしコンピュータの出現がこの財産を無用の物にしてしまいました。時は仕事のあり方の改革を要請しました。そして今日があります。コンピュータの導入が、従来の工程を省略可能にし、ひとりで出来る仕事に変えてしまいました。その影響を受けて、出版、印刷、製本が三位一体といわれた以前のような独自な仕事の分業の域が薄れていきました。もちろん、いまもその分野の仕事を、専門職として、大事にしているところもあります。しかし今日では、これらすべてを一社で賄なってしまうのも珍しくありません。そういう現状を容認しながら、敢えて、各組合を紹介します。
明治維新、自由民権運動の世論作りを背景にして、新聞、雑誌の刊行が促されると同時に、活版印刷の起業も促進されました。明治三年(1870)「横浜毎日新聞」、明治五年「東京日日新聞」、「郵便報知新聞」、明治七年「読売新聞」、遅れて明治十二年「朝日新聞」という具合に、次々と新聞が発刊されていきました。
明治十年、今日のようにマスメディアが発達していなかったころ、「郵便報知新聞」は西南戦争に従軍記者を派遣し、リアルな戦況報告をして新聞の価値を高めました。
このように世の中の必要性に呼応する形で、印刷業界が育まれてきました。報道の必要性に促されて新聞。教育の必要性に答えて教科書。販売の促進のためのポスター。その他商業印刷では、切手、証券印刷、もろもろのカードなど。この業界は社会のニーズに応じながら、また、さまざまな分野で、民衆を半歩リードし、感性を育てる役割・文化を担う役割を果たしてきました。そしてそれに携わるさまざまな職種を生み出してきました。活版印刷の時代の文選工から始まり、コンピュータ時代のDTPオペレータ、ディレクターやイラストレーターまで。時として過剰包装が槍玉にあがることもありますが、包装紙は美術品と見紛うほどです。恐らく日本の印刷技術に匹敵するものを持っている国を他所に捜すのは難しいでしょう。
マルチメディアの今日、メディア媒体に変化が生じ、印刷物は頭打ちしたように見えますが実はそうではありません。印刷業界でよく耳にするのは「空気と水以外は何でも印刷します」というコピーです。それくらいあらゆる分野に進出しています。街を歩いて目に飛び込んでくるもの全てが印刷といってもちっとも過言ではありません。都営の循環バスのラッピングも印刷です。切符、定期券、カードといわれるもの全て、皿やカップの模様も印刷です。印刷物でないものを捜すのが難しいくらいです。
これからも新しい技術を貪欲に取り入れながら益々発展していきたいと思っています。
東京グラフィックサービス工業会(東グラ)の誕生を探ると謄写印刷業に行き着き、明治末期、1900年くらいまで遡ることが出来ます。
謄写印刷業とは、いまはもう見ることも出来なくなってしまいましたが、謄写版=ガリ版刷り、石版の上に油紙を置き、そこに鉄筆という筆記具を用いて、人力で油紙の上に文字を書き、その油紙を上蓋にセットし、インクのついたローラーを転がして、印刷物を刷る、それを行う人たちの仕事のことでした。当時この仕事のできる人は技術者として扱われていました。この仕事の業態は印刷所を構えるというような形をとらず、会社や官公庁等へ、謄写印刷技術者としての人材派遣業務が主を占めていました。俳優の佐藤慶さんが、売れない時代、いまのSOHOのように、謄写版筆記者・技術者として生活費を稼いでいたのは有名な話です。
やがて和文のタイプライターが出現し、それを用いてタイプ印刷が可能になり、活版印刷とは異なる革命的な「軽印刷」が誕生することになりました。このタイプライターの出現が印刷革命の原点になったといっても過言ではありません。この時点では、文字はまだタイプという「ハードウェアー」(物質)でしたが、形態としては、完全に今日のIT電子出版の態を成しています。
この「ハードウェアー」を「ソフトウェアー」(情報)に変えたのがワードプロセッサの登場です。これまで物として外にあった文字を、情報としてワープロの内部に取り込んだことです。このことは何をもたらしたかと考えると、これまでさまざまな手を経なければいけなかった作業を省くことができるようになったということです。ご存知のように、パソコンの登場で、ワープロの機能は、すべてパソコンに吸収されてしまいます。更には、印刷のためのアプリケーションが開発され、普及するなかで、現在見るように、これまでの印刷工程すべてがパソコン一台で処理できるようになってしまいました。
軽印刷。「軽」という接頭語が表すように、東京グラフィックス工業会は、活版印刷とは異なる本流でない位置づけを自覚しているようなところがありますが、この「軽」が果たした役割を印刷の歴史の上に置いてみると、今日のデジタル化へ導いた功績は計り知れないものがあります。「軽」だからこそ出来た変化への対応・仕事を見事に果たしていると思われます。
謄写印刷、軽印刷を経た東京グラフィックス工業会(1996年設立)は、本来の軽快なフットワークを生かして、インターネットへの対応、デジタルスペシャリスト育成講座の開設、ISO(国際標準品質)導入への取り組み、それらさまざまな取り組みを通して、時代が要求する変貌へ挑戦し続けています。
書籍が出回ったのは1920年代ころ、一般的な拡がりを獲得するのは円本ブームをきっかけとしてです。円本=廉価本ですが、その名は当時どこへでも一円という均一料金で走るタクシーに由来するものです。背景には不況による印刷・製本業界の遊休設備と余剰労力をどうするかという問題がありました。これらを円本の大量出版に使うことで、書籍は従来の類書の半値以下という低価格がもたらし、それは同時に購読者数の増加=消費の拡大、そして知識の普及につながりました。円本は低価格の割には印刷も製本も優れていました。このブームは製本の製作に革新的な変革をもたらしました。定期的かつ大量に出るので、生産の能率を上げる工夫がなされました。
製本は板紙つきの上製本であるので、いとかがり機械の導入を促すことになり、クロスなどの装幀材料も国産化への道が開かれ、表紙貼りや箔押しの分業化も進み、普及版と豪華版の製本の分化もこの時期からスタートすることになりました。
ヨーロッパでは本は読み終わったら自分の好みによって装幀するというのが一般的です。従って、装幀を専業とする人が工芸家として育っていく素地がありましたが、日本では印刷物に付属するサービスとして製本が組み込まれていった過程があって、工芸家として確立していくのは難しかったようです。
ここ一世紀、製本界においては、衝撃的な変化こそありませんでしたが、日本の製本技術は脈々と続いています。コンピュータ上のDTPが印刷物を身近なものにしました。オン・デマンドという出版形式も出てきました。今後そんな分野や個人の分野をもしっかり仕事の視野に入れていきたいと思っています。
情報の電子化ということで業界の境の垣根が低くなるなか、その傾向をものともせず、いまもその独自路線を突っ走っている組合です。シール、ラベル、ステッカーなど普段何気なく目にしたり、気づかずに、貼ったり剥がしたりしているものを作っています。子供の遊びシールもあれば、実用のコーヒーやジュースの缶類に貼られたシール。汗をかくとずれおちてしますビール瓶のラベル。電車の窓の優先席の告知シールや携帯電話の警告シール。注意してみると、小さいながら、いたるところに使われています。生活をする上で欠かせないものです。
ニーズの高級化と共に媒体の変化、技術の改革も要求されます。かつて紙であったものがいまはビニールへ。ビニールも貼るものとの違和感を出さないために色ものから透明なものへと変わってきています。用途も従来は物の上に貼るのが当たり前だったのが、印刷の上に糊をつけ、内側からでも自然に見えるようにとニーズはどんどんエスカレートしてきます。車のフロントガラスに貼られたステッカーはそうです。これを見ただけで糊とインクの葛藤が想像されます。又電車の開閉ドアのガラスに貼られた両面印刷シールもあります。片面は商業用、もう片面は降乗に関する注意書き。見るだけだとなんでもないようですが、そこにもさまざまな試行錯誤の取組みがあります。
生活に密着すればするほど大きな変化を見つけ出すことは難しいと思います。この組合の制作物も生活に密着する分、また派手な部分が少ないため、技術変革への挑戦や苦労は見えてこないのが本当かと思います。しかし今後も技術向上も含め生活に必要なものをしっかり作り続けていきたいと思っています。
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